~  i n n o c e n t  t r i p  ~

『  。』

『  』

もうこのことばはあなたに届くことはないのでしょう。
だから私は綴ることができるのかもしれません。

届かないから生まれることば。
私は、私に語るのです。
でも、決別だなんて言いたくないのは、わがままでしょうか?

マイ・フーリッシュ・ハートと、彼女は歌います。
愚かなこころ。それが、きれいに映るのは、
私がさらに愚かな証拠でしょうか。

あなたはあなた自身を愚かというかもしれない。
けれど、結局のところ、みんな、愚かなものなんです。
みんなが愚かなのです。
だからみんな、きれいに映ることができるのです。

紅が、落ちていきます。
枯れ葉はいつのまにかどこかへ消え、
夕日はやがて姿を消し、
燃え上がる炎も、しだいに小さくなっていきます。
消えるでしょうか。いいえ、消えないでしょう。
私は、生きています。
あなたも、生きているでしょうから。

私は静かな平和を手に入れました。
あなたに届かなくなったからでしょう。
誤解しないでください。けっして卑屈になっているわけではないのです。
私はあなたからしか得ることのできなかったものを、得たのだと思います。
そう思います。

人は、弱い。
あなたが悩み苦しむなら、誰かも悩み苦しんでいることでしょう。
私が悩み苦しむなら、誰かも悩み苦しんでいるのなら、
私はそれを幸せに感じます。
私が誰かとつながっていることを実感できるから。

あなたは私を軽蔑しますか?
それでも、仕方ないと思います。
私は、濁って映っていても、
私は、そうしてしか生きていけないのです。

だからあなたには届かなくなったのでしょう。

今、秋風が窓の向こう側を、そっと吹き抜けました。
また一つ、枯葉は散り、新しい場所へと向かうのでしょう。
私はあれからいくつの秋風を見たでしょうか。
あなたを見失い、私を見失ってからいくつの季節が吹き去っていったでしょう。
やがて、冬風が、来ます。
私は温かいコーヒーを淹れます。

私はあなたの重さを失っていきます。
ふわふわと、少しずつ、浮き上がっていくことでしょう。
そうして、見える景色は、
これまでとは違って、美しいものであると思います。

私はあなたに何を期待していたのでしょうか。
きっと、ことばにはならないものだと思います。
あなたは私に何を期待していたのでしょうか。
きっと、ことばにしないものだと思います。

私が期待するのは、
あなたが幸せになること。
そして、私が幸せになること。

どちらも欠けたくありません。
平等に、離別されたく思います。

視界はきっと、晴れていることでしょう。
明日はきっと、晴れるでしょう。
紅は、またどこかから、昇ってきます。
私と、あなたと、違う紅が。

もうこのことばはあなたに届くことはないのでしょう。
だから私は、ことばを綴ることができるのです。
私は生きることができるのです。

最後にしましょうか。

あなたは幸せになってください。
私は幸せになります。


11/11/2006


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